自分で自分にOKを出す難しさ

読書記録
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母親に『BUTTER』を借りて読んだ。

『BUTTER』を読んでまず感じたのは、この作品は本質的には「幸せになりたい」と願う女性たちの物語だ。
恋愛、仕事、結婚、妊娠、介護―登場する女性たちはそれぞれ異なる課題を抱え、「こうあるべき」という社会の期待に苦しんでいる。

痩せているべき
若く美しくあるべき
恋人や夫がいるべき
仕事も家庭も両立できるべき
食べる量や食べ方まで女性らしくあるべき・・・

そうした理不尽に対して、不器用ながらも現状より少しでも幸せな人生を手に入れようともがいている。

特に印象的だったのは、主人公が梶井真奈子に対して抱く複雑な憧れだ。
もちろん、彼女の犯罪や生き方を肯定するわけではない。
それでも、「自分は一人前の女性であり、大切にされて当然だ」と誰の許可もなく信じられる強さには、思わず惹かれてしまう。
作中にある「己のスペックを無視して、自分が一人前の女であることにOKを出している」(梶井は太った女性である)という表現は、この作品を象徴する一文だと感じた。
私自身、この場面には強く共感した。
働いている今でも、どこかで「私は専業主婦になることを許される側の人間ではない」と思っている自分がいる。
誰かにそう言われたわけではないのに、「働いて社会に貢献しなければ価値がない」「頑張り続けなければ認められない」という考えが、知らず知らずのうちに自分の中に根付いているのかもしれない。
だからこそ、自分を無条件に肯定し、大切にされることを当然のように受け入れられる梶井に、主人公と同じような羨ましさ(と嫌悪感)を感じてしまった。

一方で、この作品の魅力はテーマだけではない。
柚木麻子さんの文章の美しさも魅力的な小説だった。
例えば、新潟に降り立った場面の描写ー
「しめった砂と甘い水の香り」
「鼻の奥の骨がきしみ、思考がぼやけていく」
「湿気がたっぷりと含まれているせいか柔らかく、どこか眠気を誘う心地良さすらある冷気」
寒さを「寒い」と説明するのではなく、匂いや肌触り、身体感覚を通して描くことで、その土地の空気まで伝わってくる。

そして、やはり『BUTTER』といえば「食」の描写も印象的だ。
エシレのバターやウエストのバタークリームケーキ、ジョエル・ロブションなど、実在するお店や食べ物が数多く登場し、「いつか食べてみたい」「行ってみたい」という気持ちになった。
高級な料理だけでなく、炊きたてのごはんにバターをのせるだけの一皿にも同じくらいの愛情が注がれていて、「食べることは生きること」であり、自分を大切にすることなのだと感じさせてくれる。

読んだ後には、「自分は誰の価値観で幸せを決めているのだろう」という問いが残る。
社会が求める「こうあるべき」に縛られ、自分自身にOKを出せずに生きてはいないか。
また、無意識のうちに他人に「こうあるべき」を押し付けてしまっている自分への戒めにもなった、かもしれない。

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